今回は給与形態のお話です。
日本で主流の基本給+職能給という形態の問題点を考察してみたいと思います。
注意:以下の話は論理的な話であり、実務上は各種法令が関連してきます。本稿ではそのあたりは考慮からはずしてあります。
最小の労力で最大の賃金を得るには
ここではまず理論的にどのような労働スタイルが賃金を多くするのかを考えて見ましょう。
まずは簡単のため月給が20万、1日8時間、月間営業日20日間、月間労働時間が160時間、
残業が160時間つくと残業代が20万となるケースを考えて見ましょう。
時間給というのは労働の密度に関係なく、時間で賃金が支払われます。
1日の製造ノルマが100stepだとします。100step/日の生産性だと月給20万円です。
ところが、生産性が悪く50step/日しかできなかったとします。すると残業を160時間して月給が40万円になります。
おや、生産性を下げると賃金が増えてしまいましたね。
次に腕に磨きをかけて生産性を200step/日にしたとします。するとやはり給料は月給20万円です。
でも、1ヶ月にやった仕事は2倍になったのに給料はかわりません。これは労働の単価が下がったことを意味します。
もし、50step/日を下回るとクビになるとすると、生産性と月給の関係は以下のようになります
クビにならない程度にサボることが最大の利益を生むことになりますね
能力の上昇に比べ昇給額は少ない
例えば1日に1000step/日の製造が出来るプログラマがいたとします。
このパラメータからだけだと想像しにくいでしょうが、給料はどのぐらいだと思いますか?
世の相場で言えば35~50万程度ではないでしょうか?
つまり、100step/日の新人と比べても月給は2倍程度なわけです。生産性は10倍になっているというのに!
評価による昇給は能力の上昇に比べ緩やかです。能力の√に比例する程度ではないでしょうか。
対して作業時間の増加に対しては比例で給料が支払われます。
なおかつ、能力の上昇のための勉強の労力はとても大きなものです。
受験勉強ばりの勉強をして5年かけて能力を10倍にして給料が2倍になるのと、
たんに労働時間を増やして給料を2倍にするのであれば、労働時間を増やす方が手軽で割がよいのですね。
このように、
- 作業時間によって給料が支払われる
- 技能評価による昇給は能力の√に比例する程度で上昇率が低い
- ノルマをこなすために残業が許されている
という前提の下では、労働の牛歩戦術が給与の最適戦略となりうるのです。
牛歩戦略を防ぐルール改定
時間管理による月給制というのは上記のような問題を本質的に孕んでいます。
しかし、そんな社員ばかりでは会社は潰れてしまいますね。
そこで、仕事の牛歩戦術が最適戦術とならないように工夫することになります。
簡単なのはノルマ達成のための残業を禁止することです。
残業代の支払いをとめることで、残業代を稼ぐ戦略を封じることが出来ます。
しかし、ノルマはノルマですから、いわゆるサービス残業を強いることになりますね。
これは違法であるのはみなさん御承知でしょう。
では現実の社会ではどういう方法をとっているのかというと…。
実は、(残業代支払い制限以外の)ルール面での対策がされている例を殆ど見ません。
どちらかといえば精神面での対策に終始しているように思えます。
抜本的な対策としては、いわゆる歩合給とすることや、
定期的に評価を元に交渉する年俸制といったものが考えられます。
しかし、なぜ月給制ばかりなのかというと法律の影響が大きいのです。
話題に上がっていたホワイトカラーエグゼンプションは時間に対する報酬というルールを
改めるための法的な試みでした。もっとも、法案では適用範囲などが問題視され、
本来の趣旨ではない悪用がされることへの懸念が法案を否決に追いやりました。
給料を最大にするためには能力をUPさせることが最適な戦略であるように
ルール制定するためには、こうした法的なサポートが不可欠です。
投稿日時 : 2007年9月22日 17:12