非常に大きな反響のありましたこのシリーズ、とりあえず投げっぱなしはよくないので締めておきたいと思います。
その1では単純化したモデルではありましたが、
時間給である以上、労働の牛歩戦術が労働者が目先の賃金を多く得るには最適な戦略になってしまうという問題点を指摘しました。
労働時間が延びた場合に残業代として支払われる余剰金は、能力UPによる昇給よりも幅が大きく、短期的には残業を取るほうが特になってしまうのです。
その2ではIT業界の会社間の契約で
頭数x時間による派遣労働型の契約が多いことを挙げ、その場合にやはり労働の牛歩戦術が利益向上の最適な戦略になってしまうことを示しました。
また、そのような形態で仕事を請け負っている会社としては技術者の腕はあまり利益にならないことを挙げ、
派遣型IT企業は技術を欲しないことを指摘しました。
さらに、理想的な給与形態は
- 集団の利益を最大にする方向性と、個人の利益を最大にする方向性が一致すること
- その方向性は積極的な動機付けであること
である必要があるということを述べました。
その具体策は?
コメント欄で具体的な例をという声がありましたので、僭越ながら挙げてみたいと思います。
- 年俸制。固定給+能力による昇給の交渉というスタイル
- 歩合給。成果に対して従量制で報酬を与えるスタイル
わかりやすい例では上記2つです。年俸制では労働時間は報酬額に加味されません。
その労働の質と量で定期的に報酬を交渉するスタイルです。
スポーツ選手がトレーニング時間で時給をもらっているわけではありませんよね。成果を元に交渉をするわけです。
もうひとつが歩合給です。これも時間なんて関係ありません。出来高制ですので、短期に入用なときは
がんばって根をつめれば報酬が増えますし、報酬は少なくとも自由が欲しければそれもまたよし。
労働ペースを労働者側の裁量で決めることができます。
そして、この両方で問題となるのがモノサシをどうするのか、ということです。この点は別途機会があれば取り上げてみたいと思います。
他の人々の意見
他のわんくまメンバーの方のblogにも波及したようですが、ここでは本稿の主題にあった2エントリだけ紹介させていただきます。
他の方のエントリもそれぞれに興味深いのですが、話の方向性が違ってきますので今回は割愛させていただきました。ご了承ください。
Ognac様の「残業と報酬と待遇と」では
時間拘束の仕事か請負の仕事かで異なる気がします。
雇用契約は36協定などで時間拘束を前提としてます。その前提の上で同一労働同一賃金という話が成り立ちます。
アスリートの人たちは能力社会です。農業や個人商店など自営業は成果と収入が直結します。
翻って、IT業界は個々人の能力差は歴然とあるにもかかわらず、時間拘束の待遇が多いようです。
時間拘束である以上は労基法の支配下に置かれて、残業は原則不可となります。
実体は成果物であるので、機能要求を満たせばOKとみなすと、30人日で請け負って、5日間で仕上げて25日遊ぶとか、
一日分の仕事を3時間で済ませて、5時間をNETのQAに費やすなり自己研鑽に勤めるのは裁量の範囲な気がします。
しかし、労基法を厳密に適用すれば、拘束時間中(勤務時間中)は業務以外の事はしてはならないとあります。
(中略)
IT職場の特性と相反する規定で社会が成立しているので、不平不満がでてくるのだと思うのです。
と(強調は凪瀬によるもの)、時間拘束による労働がIT業界とはマッチしないことを言っておられます。
ddnp様の「例えばこんなのどうでしょう」では
要するに、短期に品物を納めれば、その分報酬が多くなればいいんですよ。
技術者(ないし技術者を自社で運用する企業)は
生産性を上げるために、いろんな工夫をするでしょう。
例えば、無駄な会議をやめる、
生産性を挙げるツール・ライブラリの導入に前向きになる。
同じ報酬なら、ぱっぱと仕上げて次の仕事に取り組む(*)し、
もし、短期納入特典があれば、さらに熱が入ると思います。
* もちろんは検収の通るクオリティは必須。いわずもがな
発注側にとっては、納品が早ければそれに越したことは無いわけで。たぶん。
と(強調は凪瀬によるもの)、こちらでもやはり「労働時間に対する報酬」という制度がマッチしないと言っておられるわけです。
結論として
時間に対する報酬というスタイルがIT業界とは合わないというのが多くの方に共通した意見だと思います。
しかし、日本の労働基準法は時間に対する報酬を前提としているところがありますし、
社会保険の各種書類も月給制を大前提としているような書類だったりします。
時給や月給というスタイル以外の報酬を出すには事務的、法務的な煩雑さがあるわけです。
それに比べ月給制というのが無難。よほどの理由がない限り月給制以外の給与形態を模索しよう
という経営者がいないとしても不思議ではありません。
ホワイトカラーエグゼンプションもお蔵入りしましたし、当面IT技術者が月給で雇われることに変わりはないと思います。
しかし、時間に対する報酬という、労働の牛歩戦術が報酬を最大にする最適戦略となるスタイルを選択しているようでは
日本のIT業界の国際競争力はどんどん弱くなってしまうのではないでしょうか。
投稿日時 : 2007年9月26日 22:42