前回の続きです。
前回は時間給の場合、労働者が最小の労力で最大の賃金を得ようとする場合、生産性を下げる戦略をとることになる、というお話でした。
賃金という労働者の利益を考えた場合、生産性の向上は労働者にとっては実はどうでもよいことだったりするわけです。
会社やグループといった集団の利益と労働者個人の利益とが相反する状況にあるということを指摘したかったのですが、論点がブレてしまっていましたね。
会社間契約における労働の牛歩戦術
IT業界では今でも派遣業そのもののビジネスモデルを展開している会社が多くあります。
この場合、XXプロジェクトに5人送り込んだ、契約上は一人60万×5人=300万の月間売上、という形になります。
さらに、月間労働時間が超過した場合は残業時間分だけ別途請求するような契約になっていたりします。
要するに頭数と時間で利益が増えるという契約。
これは前回とりあげた労働の牛歩戦術が最大利益を生むことになるわけですから、
会社としては契約が打ち切られない程度に、かつ、瑕疵担保責任などで損害が発生しない程度に仕事をしてくれればよく、
どちらかといえば能力的には最低ぎりぎりラインの人間を営業の口先三寸で送り込むほうが利益が上がるという寸法なのです。
これが、IT業界なのに社員の教育に金をかけたがらない会社の論理です。
技術力は金にならない!
もっともこれは、派遣労働的な契約をしているからであって、一括請負では赤字で会社が傾くわけですが、
技術的な強みを持っていなくとも、つまり、経営陣は一切IT業を理解していなくとも利益は出せるという魔の商習慣なのです。
理想的な給与形態
私は集団の利益を最大にする方向性と、個人の利益を最大にする方向性が一致している給与形態が最善だと考えています。
前回のエントリでは個人の利益のためには集団に損失を与えるような例を示しました。
現実の社会では労働の牛歩戦術を行わせないような方策として、時間給にいろいろとアレンジを加えたりしていますが、
大同小異、やはり労働の牛歩戦術を行う十分な動機付けが残ってしまっていると思います。
SIerが下請けに発注する場合も、品質と生産性を高めることで利益が増えるような契約内容にするべきです。
労働の牛歩戦術が最大利益を生むような契約で下請けに発注を出すような人は背任に問われるぐらいでいいのではないかと思います。
同じく、会社と社員の間の契約というか給与の算定方法も、労働の牛歩戦術が利益を生まない形であるべきです。
かといって単にペナルティを課すなどの後ろ向きなデメリットを与えることで労働の牛歩戦術を抑えようとするべきではない。
逆に、労働力を多く提供したならばしたぶんだけ利益が還元されるような、
積極的に労働を提供する動機付けが起こる形態を模索するべきです。
- 集団の利益を最大にする方向性と、個人の利益を最大にする方向性が一致すること
- その方向性は積極的な動機付けであること
これが理想的な給与形態に必要な事項だと思います。
投稿日時 : 2007年9月25日 11:47