re: Re^2:メール…なぜにメール?(Mr.Tさん)より:
>私は、「問題がないことを知らせるシステム」ではなく、「問題があることを知らせるシステム」の方が、安心できると思います。
同意。
なんでしょうね、この温度差というのは。
re: Re^2:メール…なぜにメール?(中博俊さん)より:
そもそもこんなシステムを考えつく事が理解できない。
メールを100%送達するしくみはこの世の中にない。
サーバのダウンをいっさいさせてはならない。
カードリードエラーを発生させてはいけない。
これについては、3月のエントリでも、元ネタのさらに元である「RFIDタグ搭載ランドセルの校門通過記録で仲良しグループを割り出すという小学校教諭の発想は普通?(高木浩光@自宅の日記)」にも、書かれています。
RFIDタグ搭載ランドセルの校門通過記録で仲良しグループを割り出すという小学校教諭の発想は普通?(高木浩光@自宅の日記)より:
私は、この3年間、RFIDのプライバシー議論にかかわってきて、技術者よりも非技術者の方が技術に惚れ込んでしまっている様子を見てきた。(中略)技術の使用者が技術に惚れ込んでしまうような場合には、どうすればよいのだろうか。
システムの完璧さより:
エンド ユーザの情熱と、営業のごり押しが先走り、技術者に「ノー」と言わせなかった。元々冷めている技術者が「最初っからできっこないこというなよ」と言っているような気がします。
話の元になった立教小学校の RFID タグによるシステムについてですが、こちらにおもしろいことが書かれていました。
無線ICタグは子供の安全の切り札になるか?(ASAHIパソコン 2004年11月)(佐々木俊尚 これまでの仕事)より:
富士通はRFIDと赤外線センサを組み合わせ、無線ICタグを持っていない不審者が侵入するとアラームが鳴るソリューションを開発した。そしてこのシステムを、ちょうど校内システムの構築などで取引のあった立教小学校に提案したのである。
労力低減とセキュリティも実現した「RFIDタグ」児童の登下校時を完全把握で〝あんしん〟約束(セキュリティ産業新聞社)より:
また、同時に「グループウエア技術」など素晴らしいIT技術を持つ富士通さんと協業作業を推進してきています。
こうした中、今年の初めに富士通さんから別件でRFIDタグ技術の提案がありました。
技術側からの提案は、タグによる不審者の識別であった、と。ここに、ユーザが持つ別の問題がクロスしたわけです。
無線ICタグは子供の安全の切り札になるか?(ASAHIパソコン 2004年11月)(佐々木俊尚 これまでの仕事)より:
同校は7時半には校門が開けられるが、子どもたちの出欠が確認されるのは8時半になってから。もし通学途中で事件や事故に巻き込まれていても、対応は1時間以上も遅れてしまうのだという。そこで、校門を子供がくぐった段階で安全を確認できるセキュリティシステムの導入が決められたのである。
労力低減とセキュリティも実現した「RFIDタグ」児童の登下校時を完全把握で〝あんしん〟約束(セキュリティ産業新聞社)より:
先生の(雑用など)労力軽減に役立つほか、児童の安全対策も同時に実現できるのではないかと思いました。
元々、このシステムを導入するきっかけは、教職員の労力を軽減することで〝教え〟に専念するための補助機器であり、同時にセキュリティも向上します。
「RFID児童登下校管理システムのクオリティは安心安全ソリューションってレベルか」(高木浩光@自宅の日記)では、最後をなんというか、まあ、そういう業者いますね。ときどきですが。
でくくっているためか、業者を非難するトラックバックが多くあります。確かに、顧客の問題を解決できないものをソリューションとして売り込んだ業者にも、問題はあるでしょう。しかし、業者がソリューションとして提案したのは、「不審者が侵入するとアラームが鳴る」ところまでなのです。ここに、「こういうことはできるのですか?」「ではこれも、あれも、それも」と追加していったのは、顧客の方ではないでしょうか。引用されている所のひとつに、こんなことが書いてあります。
(削除されているため、引用元は示せません)
もはや、我々が当初、出欠管理として意図したことよりも、登下校の安全確認という面の.方が重要度を持ってしまっているのです。
ベンダーからの提案は、「タグをつけずに入門しようとする人を不審者と見なし、連絡する」というものでした。ここに、何らかの質疑応答があり、「タグに ID を振れば、個人を識別できる」→「児童に個別の ID を持ったタグを持たせれば、児童が登校したことがわかる」→「出欠管理に使える」→「登校していることがわかるなら、親に登校したことを知らせられるのでは?」→「安全に登校したことを伝えられる」・・・のように変化していったのでしょうか。(あくまでも推測です)
もちろん業者は、可能、不可能を判断し、それを顧客に伝える必要があります。可否の判断には様々な要因があります。技術的なもの、期日的なもの、費用的なものなどです。
今回、一連の学校安全ソリューションを「問題だ」と取り上げるのは、技術的な要因のために、「安心安全ソリューション」と言えないと判断するためです。
では、どんなものが、要求されるべき水準に対して未達なのでしょうか。
このシステムの要ともいうべき、「送信時間とほぼ同じ時刻に必ず到達する電子メール」です。
同じようなシステムがないか、検索してみました。
児童の登下校時刻を FeliCa で保護者へメール送信、「スマートタイムス スクール版」(Japan.internet.com Webビジネス)より:
スマートタイムスは、児童が IC カードをリーダー機(パソリ)にタッチするだけで、リアルタイムに保護者へメール送信されるシステム。
登下校安心安全システム・勤怠管理のインターネットタイムレコーダー・スマートタイムス(グローブコム株式会社)より:
登下校時、登録された保護者にメールが届くので、安心!安全!防犯対策に大活躍!
学校法人 立教学院 立教小学校様(東京都) - 導入事例 -(富士通 文教ソリューション 導入事例)より:
児童が校門を通過した時点で、登下校の時間が自動的に保護者の携帯電話やパソコンへ電子メールで通知されます。これにより、我が子の正確な登下校時間をリアルタイムで知ることができ、保護者にとっての大きな安心となっています。
登下校情報メール配信サービスは、学校のITインフラとして普及するか(ITmedia エンタープライズ)より:
トッパン・エヌエスダブリュ・開発営業グループ営業第一チームリーダーの荒川正一氏は次のように語る。
「ホットコンパスの大きな特徴は、インターネット回線さえあれば簡単に設置できること。PCを必要とせず、カードリーダーにネットワークケーブルを接続するだけで設置できる。従来のサービスではメールの遅延が問題になることもあったが、当システムではキャリアの都合を除き、理論上15分で12万件のメール配信が可能で、メール遅延の心配はない」
ICタグで児童の登下校見守り、自販機ネットワークと連動で通学路も安全管理(PressNetwork 報道資料)より:
【登下校情報配信システムの概要】
登下校情報配信システムの内容は、カードタイプのICタグを配布し、塾や学校への入退館時にICタグの読み取り機にかざすと、瞬時にサーバーに登録をされている保護者の携帯電話、自宅のパソコン等のメールアドレス(3件まで登録可能)に入退館情報がメールで送信されるシステムです。
Kids in Feel:モバイル関連システム(ドコモ・システムズ株式会社)より:
メールが受信できない環境にいるとき、メールの遅延が発生した際にインターネット、Webを利用して、登下校状況を確認することができます。
以上、google、Live Search にて、「学校 安全 登下校 (ICタグ OR rfid)」をキーに検索した結果からピックアップ。
良心的なのはドコモ・システムズさんだけ?
これらのシステムでは、ある地点で ID を読み取って、誰か(親)にメールで連絡し、親を安心させるという仕組みになっています。メールが誰かに届かなければ、それは事件や事故に巻き込まれたことを意味するわけです。ここは、本当は「巻き込まれた可能性がある」なのですが、果たして利用者はそう思っているでしょうか。ドコモ・システムズさんのみ、「メールの配送が遅延することがある」ことを想定しています。トッパン・エヌエスダブリュさんは、微妙ですね。「自分の責任範囲では遅延はあり得ない。キャリア(という言い方から、携帯電話)の都合でのみ、遅延が発生し得る」と読めばよろしいのでしょうか。
営業用のコピーですから、多少のオーバーな表現は仕方がないと思います。しかし、どこかで「送信時間と受信時間は、必ずしも一致しない」ことを伝えなければ、過度の期待をさせてしまいます。
ただ、このとき、顧客への説明を、技術者が直接できるわけではありません。
入社して2年目の頃、一度失敗したことがあります。お客様より、「これ、遅いけど、もっと速くならないの?」と聞かれ、「なりません」と即答してしまいました。次の日、営業さんからこっぴどく叱られました。「どうして、最低でも『持ち帰って調査します』といわないんだ!」と。データをチューニングすることで、満足していただける速さまでもっていけたので、その時の思い込みで即答してしまった私が完全に悪いのですが、普段は機械を相手にしていることが多い技術者は、こういう失敗 = 相手の気持ちを考えずに返事をしてしまいがちではないでしょうか。そのため、多くの場合に、営業さんを通して話をすることになると思います。このとき、営業さんの理解が不十分であったり、営業さんが「不利益になる」と判断したことについては、伝えるべき人まで伝わらないことがあります。まぁ、自社製品の特徴を把握していないこともあるのは、「どういうこと?」と思いますけど。
これらのシステムは、「ある地点に来たことを、メールで知らせる。メールを受け取ったことにより、安全を確認して、安心を得る」というシステムです。したがって、「メールが届かないことがある」というのは、システムにとっては致命的な欠点です。この致命的な欠点を、技術者は把握しているでしょうか。把握しているなら、伝えるべき所へ伝えようとしたでしょうか。
技術者は、技術の限界を知っています。そのことは、発想を閉ざすことにもつながります。適切な知識を持った技術者なら、「いつ届くかわからず、確実に届くともいえない電子メール」によって、安心を届けようとは思わないでしょう。
しかし、日頃「発信と同時に届く電子メール」に慣れている使用者は、「これと連携できるのなら、すばらしいことができるじゃないか」と考えるでしょう。この発想は大事であり、必要なものです。
しかし、今現在の技術では、様々な制約を加えなければならないことがあります。使用者の過大な期待が技術者の言葉を消してしまうのなら、その先には不幸な出来事が待っているでしょう。
繰り返しますが、電子メールは、「送信と同時に確実に相手に届くもの」ではありません。遅延や不達があり得ます。電子メールに「安心」を届けさせようとするなら、これらの予期せぬ障害に、使用者がどのように対処するべきかということを、システムに盛り込む必要があるのではないでしょうか。
投稿日時 : 2007年12月21日 23:39