あるところに小さな王国がありました。
その国の王様はWinnyなどのファイル共有ソフトによる、違法な複製に頭を悩ませていました。
王様はこのことで宰相たちとSkypeで対策を議論していました。
Winnyなどのファイル共有ソフトの多くが
P2P
(Peer to Peer)技術を利用していることに目をつけた王様は、
「何人もP2P技術を用いるべからず」という御触れを出したのでした。
静まり返った王宮
次の日、王様はのんびりと午前を過ごしました。
そういえば、いつもはSkypeなりメッセンジャーなりでいろいろと報告が来るのですが、
今日はそうした呼び出しがひとつもないのです。
午後になってお茶を飲んでいた王様の元に、宰相がやってきました。
「直接来るとは珍しいな。いつもはネットで済ませているだろう。」
すると宰相は答えました。
「王様、Skypeが使えないのです。メッセンジャーも使うことができません!」
王国では旧式の電話線は存在しません。すべてSkypeやIP電話を用いるようになっていました。
P2Pを禁止したことで、技術者たちはクライアント同士での接続をするこれらのサービスを停止したのでした。
サーバへの接続すらままならない
王様はあわててPCを立ち上げました。ネットで状況を確認しようとしたのです。
ところが、検索しようとGoogleを使おうとしても404 not foundとなってしまいます。
王宮の技術者は申し訳なさそうに王様に進言しました。
「IPアドレスで接続なさってはいかがでしょうか。P2Pが禁止となったので
DNSが効かないのです。」
「なんということだ…」王様の顔色が青ざめています。
しかし、一国の長たるからには投げ出すわけにはいきません。
「
ニュースも使えない…。IRCもだめか…。」
宰相は尋ねました。「いかがしましょう?御触れを撤回なさいますか?」
「いや、駄目だ。ファイル共有は撲滅せねばならぬ。使えなくなった技術は代替え技術を研究させるのだ。」
集中するサーバ負荷
P2Pが禁止となったため、すべてのP2P技術はクライアント・サーバ型通信の技術へと置き換えられて行きました。
「王様、業者がサーバ負荷を緩和するための施設増強に補助金を出せと言っています。」
「致し方あるまい。P2Pを禁止し続けることが優先だ。データセンターの拡大費用は補助してやれ」
クライアント同士の直接通信が行えないため、データは常にサーバを経由します。
電話会社は突然の負担増に補助金の嘆願書を出さざるを得なかったのです。
「どうだ、宰相。ファイル共有ソフトは撲滅できたのか?」
「P2Pのファイル共有ソフトは禁止となりましたので、わが国ではほぼ全滅した模様です。
ですが…。
オンラインストレージに違法にファイルをアップロードすることが盛んに行われているようです。」
目的は達せられず、巨大なデータセンターだけが残った
ついに王様は失策を認めました。P2P技術を禁止することによるあまりの痛手を無視できなかったこともありますし、
なにより、P2Pはただの通信技術でしかなく、
違法な複製を助長するファイル共有ソフトでも使われることがあるとはいえ、
それを禁止したからと言って複製行為そのものを止めることなど出来ないことに気付いたからです。
後にはサーバ負荷を軽減するために税金で作り上げた巨大なデータセンターが、
誰にも利用されない不良債権として残ったのでした。
手段と目的を取り違えてはいけない
違法な複製を防ぎたいからと言って、ファイル共有ソフトで用いられることがある技術を禁止すればよい
というものではありません。ファイル共有ソフトで
しか用いられることのない技術であれば禁じるのも手でしょう。
しかし、P2Pというのは汎用的な通信技術です。安易に禁止すればよいというものではありません。
P2P有害論はこの誤りを含んでいます。しかも、P2Pを禁止したところで違法に複製をサーバにアップロードする
ことは禁止できないわけですから、痛みを伴って尚、目的が達成できないわけです。
そもそもの著作権のあり方の議論にはここでは触れませんが、P2P害悪論を唱える人は
目的と手段を取り違えているようです。
そんなことをやったところで目的は達成できません。
関連:P2Pの誤解を広めてはならない
投稿日時 : 2008年4月16日 15:49