ひと昔前――当時はそう呼ばれてはいなかったけれど、今呼ぶならば「Web1.0」だった頃――Webコンテンツと言えば静的なHTMLか、動的と言ってもせいぜいがCGIで作られた掲示板くらいのものだっただろう。
その頃、コンテンツを発信することができたのは、Webに関してそれなりの知識を持っている人だけだった。
HTMLを書くことができて、FTPサーバにアップすることができて、Perlの知識まではなくとも、既製のCGIをダウンロードしてきて配置するくらいの知識は必要とされた。
Blogというものが登場して、この敷居はぐっと低くなった。
発信したいコンテンツは持っているけれど、それを発信する術――静的サイトを構築する知識――を持たない人にも、情報発信の門戸が開かれた。
それ自体は、大変喜ばしいことだと言ってよい。
しかし、(Web1.0時代が玉ばかりだったとは言わないが)コンテンツの質が玉石混合となったのみならず、マークアップも粗製乱造がぐっと増えた。
Blogを使って情報発信する人は、HTMLの知識を持たない。
俺は持っていないわけではないが、Blogの簡便さに堕落して、この日記もマークアップはほとんど検証せずに投稿するだろう。
Blogツールには大抵、選択した文字を太字にしたり斜体にしたりといったボタンがある。
案の定これらは、<b>とか<i>とかのタグで文字を装飾してくれる。
ちなみにWLWは、斜体を選ぶとなぜか<em>を使ってくれる。そりゃ英語圏ではそうだろうけど、日本語で斜体は読みにくくて仕方がない。
閑話休題。
これはHTML 3.x時代の悪しき慣習だ。
IEとNetscapeが、互いにHTMLの表現力を競い合い、装飾タグを多数盛り込んだものが、なし崩し的に追認されたのがHTML 3.2だった。
その後、HTMLは4.0で、多くの物理要素を非推奨とし、装飾はCSSで行う方針に切り替えた。
物理マークアップは、その時だけを見れば簡単に装飾ができるし、WYSIWYGで素人にも優しい。
しかし、長期的な目で見て、例えばBlog全体のデザインを変更したくなった時とか、使っているBlog業者を乗り換えた時とかには破綻する。
事実、俺のこのBlogの過去の記事にも既にデザインが崩れているものがある。
Blogによって情報発信の手段を得た人間は素人だ。Webデザイナじゃない。
だから、自分のコンテンツをどう装飾して見せようかという構想はあまり持っていない。
持っているとしても、せいぜい、重要なところを赤字にしたり太字にしたりといった程度のものだろう。
なればこそ、そのわずかな修飾欲をぐっと抑えて、コンテンツはあったけれど発信手段を持たなかったあの頃に立ち返れば、彼らはHTMLとの相性がいいと言えるのではないだろうか。
しかし、そうした人間にも簡単に修飾できるようにするツールがある。
BlogはWebに、部分的な進化と、部分的な退化をもたらした。
この退化をどうカバーして未来へ繋げていくのか。それがBlogの抱えた課題の一つだと思っている。