「マッハの原理」とは、音速の単位で有名な物理学者、エルンスト・マッハが提唱した原理である。
物理学におけるマッハの原理は、「物体の慣性力は、全宇宙に存在する他の物質との相互作用によって生じる」というもので、後にアインシュタインの相対性理論に大きな影響を与えたと言われている。
さて、このマッハの原理、物理学以外にも様々な所に応用できる。
例えば、先日えびぞうさんがブログに書かれていたクオリアの話からリンクを辿ると、これを脳細胞に応用した「認識におけるマッハの原理」というのを見ることができる。
要するに「マッハの原理」とは、「モノの性質は、そのモノと他のモノとの関係を論じて初めて意味を持つ」ということに一般化できるのだ。
今日紹介するのは、そんなマッハの原理の応用例の中でも最大かつ最も身近と思われる「命名におけるマッハの原理」(と呼んでいるのは俺だけだろうが…)である。
例えば、俺が新種の蝶を発見して、これを「ワンクマアゲハ」と名付けたとしよう。
さて、俺はなぜ、この蝶を「ワンクマアゲハ」と名付けたのか。
いや、名前は実のところどうでもいいのだ。より根本的な問題としては、「俺はなぜ、この蝶を新種として発表したのか」と言い換えてもいい。
昆虫学的に、新種が認定されるプロセスについては詳しくないから、現実とは食い違っている可能性があることはご容赦願いたい。あくまで例示である。
この蝶が新種と認定されたのは、この蝶が何らかの特定の性質を持っているからではない。
この蝶が、他の蝶のどの蝶にもない性質を持っているからだ。
どう違うのかって? 「他の蝶」の存在を視野に入れているかどうかだ。
例えば、「触角の長さが4cm以上ある蝶は新種とする」とかいう(いい加減極まりないw)基準があったとすると、その蝶の性質だけを見て新種かどうか認定することができる。
だが、実際にはそうではない。
もしも、俺が発見したワンクマアゲハが、触覚が4cm以上あったために新種と認定されたのだとしたら、それは「ワンクマアゲハの触角が4cm以上あったから」ではなく「ワンクマアゲハ以外に触角が4cm以上ある蝶がいなかったから」なのだ。
新しいモノに新しい名前を付けるということは、そのモノを他のモノから区別するということに他ならない。
名前は「それが何であるか」を表すのではなく、「それがそれ以外の何でもないこと」を表すのだ。そこでは暗黙のうちに「それ以外の何か」の存在を想定している。
マッハの原理にも「もしも宇宙に物質が1つしかなかったら、その物質の質量は意味をなさない」とあるのと同じく、「もしも『他のモノ』の存在を想定しなかったとしたら、そのモノを他のモノから区別する必要性はなく(というよりも区別することなど不可能であり)、よって名前は意味をなさない」のだ。
これが「命名におけるマッハの原理」である。