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上坂監督と迎える「HAYABUSA」 に行ってきた

6月5日に浜松科学館で開催された『上坂監督と迎える「HAYABUSA」』に行ってきました。
今回の講演はプラネタリウム用全天周映像「HAYABUSA BACK TO THE EARTH(以下、HBTTE)」のロングバージョンの投影と、作者である上坂監督の講演で構成されていました。
そして今回に限っては、静岡大学の祓川先生の協力で、字幕・音声ガイド付きの投影となりました。
祓川先生は字幕などが邪魔にならないかなどを心配されていたようですが、そんなことは全くなく。
むしろ、これはこれで是非ほかの方にも見ていただきたいものでした。

さて、以下は HBTTE 投影後の上坂監督の講演内容です。
がんばって速記したつもりですが、漏れ・抜けなどがあるかもしれません。


はじめに

  • HBTTE は昨年3月に大阪で封切りされたのを皮切りに、すでに終了したところも含めると、これまでに全国19館で上映された。
  • 自分で作った作品にもかかわらず、初めのうちは感動で涙が出てしまった。今はそんなこともないが、今日は皆さんの感動が移って涙が出てしまうかもしれない。
  • 今回の投影は、静岡大学の祓川先生と協力して、字幕ガイド・音声ガイド付きである。特に字幕ガイドはスムーズに動くので是非見てほしい。(注:当日、音声ガイドはFMラジオで聞くことができた)

HBTTEのきっかけとコンセプト

  • はやぶさは生きているとしか思えないことがある。自分の子供を、命を次の世代へと伝えていくという、「命のつながり」を感じた。
  • この講演では、HBTTEのメイキングと近況報告をしたい。
  • 2007年にJAXAが公開した「祈り」という動画作品がある。これが「HBTTE」のそもそものスタート。私(上坂)は、この作品にCG作者として参加した。
  • 「祈り」は普通の平面映像で、DVDを作成して全国の科学館に配布した。そうしたら、大阪科学館の飯山さんの目にとまり、プラネタリウム用のドーム映像にしてみては、と言われた。
  • このときはまだ正式にスタートしたわけではないので、しばらくの間は話の構成やストーリーを考えていた。
  • 「はやぶさ」ミッションは、世界で初めての要素が多々ある。こうした、ミッション紹介をぜひやりたいと思った。
  • また「はやぶさ」が困難に立ち向かう姿を見て、命とは何かについても考えるようになった。なぜ「はやぶさ」に感情移入してしまうのかと考えてみると、「はやぶさ」に命を感じているからだと思う。
  • これらミッション紹介と命をコンセプトに、構成を練っていった。

構成のアイデア

  • 構成を練るにあたって、まずはスケッチから始めていった。
  • 当初はJAXAの皆さんのインタビュー映像を出すというアイデアもあった。しかしこれではJAXAと「はやぶさ」の話になってしまう。皆さんと「はやぶさ」が宇宙に出て行く話にしたかったので、このアイデアは早い段階でボツになった。
  • 冒頭の地球のシーンについて。このシーンではロケットが下に向かって飛んでいく。宇宙には上下左右がないので、宇宙に落下していくという考え方もあると言うことを強調してみたかった。
  • はやぶさのスピードについて表現するために、大阪から東京に向かう車にカメラを乗せて、その映像を早回しにすることも考えた。
  • しかし秒速34kmでは何も見えないのでボツになった。
  • ものが動いていることを表現するためには、対象物が必要である。そこでスイングバイのシーンでは、動きを表現するためにグリッドを考えた。
  • またイトカワの大きさを表現するために、現実のものである大型タンカーを出してみた。
  • イトカワを割るシーンは、大阪科学館の飯山さんにも話をした(注:最初に大阪科学館から話があった時点ですでに構想していたシーンという意味だと思う)。イトカワの内部構造を示すためにもぜひやりたかった。

GOサインがかかるまで

  • 構想は進んでいたが、制作費の関係もあって大阪科学館からはいっこうにOKが出ない。
  • 2008年8月に大阪までプレゼンをしに行った。しかし、会場ののりはどうも悪い。
  • そこで、静止画を組み合わせて作成した動画を使って、ムービーによるプレゼンを行った。
  • これを見せたら場の雰囲気がガラッと変わり、「やろう」ということになった。

アニメティクス

  • 絵コンテを元に、ワイヤーフレームのCGを作っていく。これをアニメティクスという。
  • アニメティクスはすべてのカット・すべてのシーンを正確に作成したもの。1コマとしてずれはない。
  • また、ナレーションも入っている(注:アニメティクスのナレーションは上坂監督自身による)。
  • 2008年12月、アニメティクスのレビュー会。
  • HBTTEのラストシーンは「はやぶさ」がエントリーカプセルとともに落下してくるが、この表現はJAXAからきつく止められていた。当時はまだオーストラリア政府と折衝中であり、万が一にも「はやぶさ」本体が地上に被害を及ぼすかもしれないという住民感情を逆なでしたくなかったため。
  • しかし他の人たちには内緒で、ラストシーンを入れて上映した。内心ドキドキだったが、上映終了後、川口先生が「いいんじゃないの」と言った。
  • 後からの話では、この時点でオーストラリア政府との折衝がずいぶん進んでいたらしい。

ドーム映像特有の演出

  • フルドーム映像と平面映像は全く異なる。ドームは「体感する」メディアだと思う。
  • 通常の平面画像にはフレームがあるが、ドームにはフレームという概念そのものがない。たとえば平面画像で多用される「フレームイン」が使えないので、どうやって登場させるかが難しい。
  • 逆に、ドームでしかできない演出もある。たとえば上にものがあると圧迫感を感じる。これを重圧効果という。冒頭の地球や、イトカワの観測シーンで使用している。
  • また、画面の上から下に動くと落下しているような錯覚に陥る。これを落下効果という。浜松科学館のような傾斜ドームでは特に有効。タッチダウン時のはやぶさの動きで使用している。

質問タイム

  • 昨年11月のエンジントラブル時の心境を聞きたい。
    • 胸をなで下ろした。作品を作り替えることも検討していた。
  • 作品を作るにあたって強調したことは何か。
    • 事実を強調した。僕がはやぶさのプロジェクトを見て思ったことを増幅した。ほかは細かいこと。

近況報告

  • 5月21日時点での来場者数は約12万人。投影された館はこれまでに19館。
  • ここ数ヶ月の盛り上がりはすばらしく、JAXAの人たちも喜んでいる。
  • TV取材も加熱している。これからも何カ所からか取材予定。
  • 中には夜の11時に電話がかかってきて、これから取材に行ってもいいかと聞かれたことがある。その後1時間半ほどの取材。でも実際に流れたのは10秒程度。

HBTTEのBD/DVD

  • フルドーム映像として演出しているので、ドームで見てなんぼの作品。平面版は当初乗り気ではなかった。
  • しかし自宅で見たいという声が多くあったため、平面版の作成に踏み切った。
  • 平面版は、コンポジットから変えている。
  • 浜松科学館でも11日からBD/DVDを発売予定。クリアファイルも作ったのでぜひ。

カプセルの帰還

  • ウーメラ砂漠にカプセルが帰ってくる。ウーメラは軍用地なので、一般の人は入れない。
  • ウーメラはアデレードから500kmくらい離れたところ。車で行く。
  • しかし僕(上坂)はプレス枠で行くことができた。ただし、回収予定地域に入れるわけではない。
  • ディスプレイを通してCGという架空の姿を見ていたが、本物の「はやぶさ」の最後の姿を見届けたかった。
  • 「はやぶさ」はウーメラの北西方面から落ちてくる。この最後の姿は、何らかの形で世に出したい。

海外展開

  • 6月上旬、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)にて英語字幕でHBTTEの予告編を上映予定。ウィーンのプラネタリウムを使用する。
  • 2年に一回、プラネタリウムの世界大会がある。今回はアレクサンドリア。アレクサンドリア図書館でデモ映像を投影予定。英語版のHBTTEを発表する。

おまけ

  • 昨日(6月4日)、JAXA広報のIES兄からメールが入った。曰く「はやぶさのイオンエンジン面は銀色なんです」。これまでJAXAの方々は誰も指摘してくれなかった。次回の「はやぶさ」は銀色にする。

会場からの要望

  • 視覚障害の身でも、今回の投影は非常に楽しむことができた。次回のコンテンツでは字幕・音声ガイド付きにしてほしい。
    • 今回の作品では無理。しかし音声ガイドはDVDの副音声として乗せることができるので、作り直す機会があったら可能性はある。

次がありますから

  • 吉川先生に、7年続いたミッションが完了することについてインタビューをした。寂しいという答えを期待していたが、さらっと一言「次がありますから」というコメントをいただいた。
  • 現在、「はやぶさ2」の計画をしている。はやぶさ2のターゲット小惑星は直径3km程度のもの。サンプラーホーンを使ってサンプルを取り出す点は変わらないが、次は軍用火薬を使った爆弾を持って行く。これを使って小惑星にクレーターを作り、その中から「新鮮な」サンプルを取得する。
  • 宇宙開発は続けていくことに意味がある。皆さんも、いろいろな意味で賛同してください。

講演後のぶら下がり

機会はなんぼでもあったにもかかわらず、上坂監督とはほとんど何も話せずorz
その代わり、祓川先生にいろいろと伺いました。
  • 音声ガイドは、非常に緻密に言葉を選んでいる。たとえばラストシーンは夜間にもかかわらず「大空」としたが、これは「星空」とすると宇宙空間と誤解するため。
    • 台本には選んだ言葉の理由も書かれており、この理由も含めて上坂監督と調整をしていった。
    • 音声ガイドの作成に時間がかかることは明白だったので、3、4月の2ヶ月間で一気にやった。そのあと字幕ガイドの作成。
    • 字幕ガイドもギリギリまで調整しており、最終版ができあがったのは先週の木曜日(6月3日)。
  • 字幕は原則として白で表示した。しかし完全な白一色だと地の色によって受ける印象が異なる。それに対応するため同じ白でも8色用意されており、今回はそのうち6色を使用した。
    • が、一カ所だけパラメータの指定ミスをしてしまった(注:素人目には全く気がつかなかったorz)。しかしディスクの読み込みエラーの可能性などを考えると、修正した場合のリスクが大きいのでそのまま上映した。
  • 字幕ガイドはDVD映像としており、プラネタリウム映像に三灯式のプロジェクタ映像を重ねた。
    • 浜松科学館では毎年11月に聴覚障害者向けの字幕ガイド付きプラネタリウムの上映を行っているが、この三灯式プロジェクタはこのイベントでしか使用しない。赤灯が破損していたが、修繕費の関係でそのまま上映した。
    • guichengとしては、終盤にさしかかると文字の色がおかしくなっていったのが残念だった。
  • 上坂監督入場の直前に「あと10メートル」と表示されたが、これは祓川先生の案。作品中、イトカワタッチダウン時にこのようなシーンがあり、このときの音声まだ使用された。
    • 当然というか、この演出がされると会場から吹き出す声が聞こえた。おそらくはリピーター。いや、私も声を殺して笑っていたんだが。
  • 上坂監督の講演後、祓川先生から花束贈呈。「せめて真ん中の青い花が枯れるまで浜松のことを覚えていてください。ちなみにその花、造花です」 いや、見事。
    • このネタ、直前になって思いついたんだそうな。近所のデパートに走って造花を調達し、花屋で花束を作ってもらった。さすがに変な顔をされたとか。

投稿日時 : 2010年6月7日 14:10

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