★整数の性質と環
整数Zを定義したところで、整数同士の演算を考えましょう。任意の
m∈Z, n∈Z
が与えられた時、m, nを足し算、引き算、掛け算、割り算した結果、
s:=m+n, t:=m-n, u:=m*n, v:=m/n
はどうなるでしょうか?
明らかに、整数と整数の足し算、引き算、掛け算の答えはまた整数になりますね。つまり、
s∈Z, t∈Z, u∈Z
が成り立ちます。しかし、整数と整数の割り算の答えは整数になるとは限りません。例えば、3/2=1.5であって答えは整数になりません。なので、
v∈Z
とは言えません。
任意の集合Aにおいて、Aの任意の要素a, bが、
a?b∈A
を満たす時、「Aは演算?に対して閉じている」と言います。上記より、整数Zは加法、減法、乗法に対して閉じている、また、整数Zは除法に対して閉じていないと言えます。
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| Fig.2 整数の四則演算 |
更に整数の演算の性質について詳しく見ていきましょう。
任意の
a∈Z, b∈Z, c∈Z
が与えられた時、加法について、
a+b=b+a
(a+b)+c=a+(b+c)
が明らかに成り立ちます。一つ目の式を加法の交換法則(commutative law of addition)、二つ目の式を加法の結合法則(associative law of addition)と言います。
また、乗法についても、
a×b=b×a
(a×b)×c=a×(b×c)
が明らかに成り立ちます。一つ目の式を乗法の交換法則(commutative law of multiplication)、二つ目の式を乗法の結合法則(associative law of multiplication)と言います。
更には、
(a+b)×c=a×c+b×c
a×(b+c)=a×b+a×c
も明らかに成り立ちます。この式をそれぞれ右分配法則(right distributive law)、左分配法則(left distributive law)と言います。
次に、0と1について考えます。
任意の
a∈Z
が与えられた時、
a+0=0+a=a
a×1=1×a=a
が明らかに成り立ちます。
このような法則を満たすここでは0や1のことをそれぞれ加法単位元(additive identity)、乗法単位元(multiplicative identity)と言います。
また、任意の
a∈Z
が与えられた時、
a+b=b+a=0
となる
b∈Z
が、一意的に存在します。この場合、明らかに
a+(-a)=(-a)+a=0
であり、
b=-a
となることに気付くでしょう。このようなbを加法的逆元(additive inverse)と言います。
ここまで考えてきた整数Zの性質を纏めます。
整数Zは、
(イ)加法に対して閉じている(閉包性(closure))。
(ロ)加法の交換法則が成り立つ(可換性(commutativity))。
(ハ)加法の結合法則が成り立つ(結合性(associativity))。
(ニ)加法単位元0が存在する。
(ホ)任意のa∈Zの加法的逆元-aが存在する。
(ヘ)乗法に対して閉じている。
(ト)乗法の交換法則が成り立つ。
(チ)乗法の結合法則が成り立つ。
(リ)乗法単位元1が存在する。
(ヌ)乗法は加法に分配される(分配性(distributivity))。
という性質を持っています。このような性質を備えた数体系を環(ring)と言います。整数Zは性質(ト)を満たすため特に可換環(unitary ring)と呼ばれます。また、性質(リ)を満たすため特に単位的環(commutative ring)とも呼ばれます。つまり、整数Zは環を成し、しかも可換環かつ単位的環です。
上の性質のセットは環の定義そのものであって、環の公理(ring axioms)と言われます。これは整数をモデルとして作られたものであり、それ故に整数が環の公理を満たすのは当然のことです。では何故わざわざ環の公理を考え、環というものを定義したかというと、様々な数体系が整数と比べてどのような性質を持っているかを分かりやすく調べたかったからです。
なので、この環という概念は、様々な数体系を抽象化してその性質を研究する場合に有用となる考えです。整数論では整数という理解の容易な数体系だけでなく、他の拡張的な或いは派生的な数体系をも扱うことになるため、環という構造を本質的に理解することは重要なことです。
次回予定「除算アルゴリズム」